コリと痛みを考えるブログ

高輪で深層筋治療を行っています。

痛みのBPSモデルとは?

はじめに

BPSモデル」という言葉を聞いた事があるでしょうか?

この言葉は

B:Biology

P:Psychology

S:Social

の頭文字を取ったものになります。

 

1977年に提案されたこのモデルですが、まだまだ浸透しているとは言えないかと思います。

ですが、慢性痛をはじめとした「痛み」を理解していく上では非常に有用なモデルになっています。

今回はそんな「BPSモデル」を見ていきたいと思います。

 

BPSモデルとは?

1977年にエンゲル(1)が論文上で公表した「新しい医療モデル」の中で述べられている概念になります。

はじめにで述べたように、それぞれの構成要素の頭文字をとってBPSと略されています。

この考えは痛みというものを非常に多面的に見ることに特徴があります。少し言い方を変えると「痛みというものを一元的に捉えない」見方を私たちに提供してくれます。

では、どんな内容が当てはまるかを見ていきましょう。

 

B:Biology(生物学的要因)
→炎症・組織損傷・身体状態など

P:Psychology(心理的要因)
→思考・知識・感情・認知・考え方

S:Social(社会的要因)
→社会参加・交友関係・家族間、友人間の関係

 

というように、痛みというものに対して非常に広い概念を私たちに提供してくれます。

 

これまでの痛みの説明のモデルはどうだったか?

 

BPSモデルが提唱されるまで、あるいは現在においても主流なのは「Biomedicalモデル」という考え方になっていると思います。

非常に広い見方を提供してくれる「BPSモデル」とは違い「Biomedicalモデル」では病気や症状に対して単一の原因を探す事に重きを置いています。

これはデカルトが提唱した心身二元論、要素還元論に強く影響を受けていると言えます。

下記のイラストは、痛みに興味を持った方は一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?

https://en.wikipedia.org/wiki/Pain_theoriesより写真引用

 

火に近づく→足の神経を通じて脊髄に入力される→脳(当時は松果体)にその情報が入るというルートを通って、痛みを実感するという非常にわかりやすい説明を私たちに提供してくれます。

私たちのようなセラピストであれば

「関節の炎症など→痛み物質がそこで溜まる→脳が検知して痛みを感じる」

などという説明を行い、その処置(=炎症を止める事)まで一貫した説明を行うことができるようになっています。

このように「Biomedicalモデル」では、単一の原因を求める事に特徴があり、それゆえに手術や薬などが発展するきっかけとなりました。

 

実際はどうでしょうか?

「Biomedicalモデル」では組織の損傷(怪我など)が私たちの痛みの知覚に与える流れを明確に説明してくれます。

言い方を変えるならば「組織損傷があるから痛い」という説明を可能にしてくれるモデルです。では、組織損傷が起こると、必ず痛みに繋がるのでしょうか?

例えば無症状者の膝の画像所見を調べた研究(2)では

40歳未満

軟骨欠損 11

半月板断裂

骨髄異常病変 14

骨棘

40歳以上

軟骨欠損 43

半月板断裂  19

骨髄異常病変 21

骨棘 37

という研究結果が出ており、組織損傷≠痛みということを如実に示しています。

また研究ではなくとも、私たちは怪我をした時に痛かったり、痛くなかったりという経験を少なからずしていると思います。また、怪我をしている時でも、ある瞬間は痛かったり、別の瞬間は痛くなかったりという経験があるかと思います。

つまり、組織の障害=痛みというわけではなく、さまざまな要因によって出現するのが「痛み」という存在だと言えます。

 

BPSモデルを振り返る

痛みを多方面から見ていくBPSモデルでは

P:Psychology(心理的要因)
→思考・知識・感情・認知・考え方

S:Social(社会的要因)
→社会参加・交友関係・家族間、友人間の関係

など、人の内面、精神的、メンタルなどの視点も提案されています。

痛みに対する固まり切った考え方(例えばヘルニアだから痛いなど)や、社会的な孤立(友人がいない、家族との隔絶した関係)なども、その人の痛みを作る、または強化する要因になるわけです。

こういったモデルからは、痛みを抱える方を症状ではなく「人」として見る見方を提供してくれます。医師やセラピストだけでなく、例えば心理カウンセラーなどの内面にアプローチしてくれる方との協力も時には重要になることもあります。

組織障害だけ追いかけるのではなく、こういった形でより多面的に見ていけると、痛みに悩む方も少しずつ減ってくるのかなと思います。

 

kimurachiryoin.com

 

参考文献

(1)Engel G L. (1977)"The need for a new medical model:a challenge for biomedicine"

.Science. Apr8; 196(4286): 129-36

(2)Culvenor A G. “Prevalence of knee osteoarthritis features on magnetic resonance imaging in asymptomatic uninjuredadults: a systematic review and metaanalysis.”

Br J Sports Med. 2019 Oct; 53(20): 1268-78

(3)NOI『EXPLAIN PAIN』