【1分でわかるこの記事の要約】
呼吸(横隔膜)と骨盤底筋の動きは吸気で下降、呼気で上昇という傾向は見られている。この同期生はありつつも、その動きには個人差、課題による差があり、全体としてかならず同じ方向に動くというような傾向は認められなかった。
また腹腔内圧(IAP)に関しても、純粋な腹腔内部の圧力というよりも、重力や加速度なども加味した複数の力によるものと考えられるため、その測定値を慎重に吟味する必要がありそう。
また今回取り上げたレビューにおいては、骨盤底に対してのトレーニング(PFMT)と呼吸練習を比較、または併用して行った際の追加効果も認められなかった。
呼吸の変化で骨盤底は動いてくるのか?
まず初めにTalasz et al. 2022の論文を見ていきましょう。この論文では主に横隔膜と骨盤底筋の関連性に関わる概念モデルが紹介されています。
論文中に取り上げられている一次研究の中で安静時における横隔膜との連動性は報告されていた。ざっくり紹介すると
【吸気で横隔膜が収縮(=下降)すると、骨盤底筋は下降する傾向】にあるということでした。
さて、この論文において筆者は動的MRIを用いて、この点を実証実験していました。
研究手法と結果ですが
吸気課題:深く息を吸った後に、声門を閉じて息を止めて手に強く力を入れる
→横隔膜と骨盤底が下降した
呼気課題:短く吸った後に骨盤底筋と腹筋を随意収縮させて、息を吐きながら手に強く力を入れる
→横隔膜と骨盤底は上昇した
ただしこちらで紹介したデータは、N=1の実験のため、どこまで一般化できるかは微妙なところです。なお呼気川では、随意収縮の指示も入っているため、純粋な呼気の結果として読むのは微妙かもしれません。
とはいえ、実際にデータとして示されているのは個人的に興味深いところでもあります。
連動性には一貫した動きが見られるのか?
次に紹介するのはCowley et al, 2023の研究です。こちらは健康な男性10名に対し、呼吸に同期したランドマーク(尿道中部、陰茎球、肛門直腸移行部、尿道膀胱移行部)の変化を超音波で観察したものになります。
こちらの研究では
・安静立位ではランドマークのうち、少なくとも1つの部位には呼吸と同期した動きが観察された
・仰臥位では10人中、7人が少なくとも1つの部位に同期した動きが観察された
さらに呼吸に対して負荷をかける死腔負荷試験では、呼吸との同期の傾向がさらに強くなったことが観察された。
ただし、その同期活動は一様の動きではなく、個人差があり、群平均で1mmを超える動きが見られたのも尿道膀胱移行部のみでした。全体としての傾向は平均的な移動距離は短く、かつ個人差、部位による差があったというのが妥当な見方かと思います。
まとめると、確かに呼吸との連動性は観察されたが、動く方向や距離、動作などは一様ではないというのがここでの結論なります。
咳や発声時にはまた違う反応かも?
さて、また違った条件で調査した研究を2つ紹介します。
まずはde Jong et al. 2023の研究です。
こちらは随意的な骨盤底筋の収縮ができる未経産の女性149名を対象に、咳と強制呼気の際に、立位、および背臥位で腹部と膀胱頚部がどのように動くかを検証したものになります。
筆者らの予想は、主に腹部に関しては内向きの動き(引き込むような動き)が想定されていましたが、多くの場合において、起こったのは外向きの動きが観察されました。
以下腹部と骨盤底の動きの結果を簡単にまとめてみます。
【立位】
①咳:内向き群で、骨盤底は頭幅部方向への動きが多かった
②発声:内向き群で、骨盤底は頭幅部方向への動きが多かった
【仰臥位】
①咳:内向き群で、骨盤底は頭幅部方向への動きが多かった
②発声:明確な差はみられなかった
ちなみにこの研究における強制呼気は「Hey」と発声するタイプのものであり、黙って息を吐くこととは分けて考える必要もあるかと思います。(というか日本人にはあまり馴染みのないやり方かも)
次に紹介するのは発声の種類による変化を調べたのがRudavsky et al. 2024の研究です。
この研究では、女性60名(うち38名が腹圧性尿失禁の経験あり)が通常の話し声、大声、高い声、低い声で発生した際に、骨盤底の動きを超音波で調べたものになります。
この研究では声量の違いによる違いがあり
通常の話し声:平均0.5mm
大声:平均1.53mm
それぞれ膀胱頚部の下降量が認められ、その差は約1mmほどありました。
ちなみに声の高さによる変化は認められませんでした。
ここまでの流れをまとめると、呼吸に伴う骨盤底筋の動きはあるが咳や発声まで含めると、呼気中に必ず上昇するわけではないという感じです。
測定された「腹圧」は何を計測しているのか?
腹圧に関して52の文献を調査したVesting et al. 2026で示されたのは、一概に腹圧という表現をされていても、その部位にはさまざまな候補があるということでした。
この研究中で示された腹圧の部位は
・胃:15研究
・食道:1研究
・直腸:12研究
・腟:21研究
・膀胱:4研究
・腹壁外側:1研究
となっており、測定に使用された機器もバラバラでした。
測定値に関しても、動作の種類によっても違いがあり、この「腹圧」には重力・加速度・呼吸などの要因も含まれているために、その測定値が何を指しているのかは注意してみたい点になります。
Niederauer et al. 2023の研究ではその具体例が挙げられており、骨盤底付近で記録される圧力は、腹筋収縮だけでなく、
・呼吸
・加速度
・動作方法
こういった要素との関連の可能性が指摘されています。
では呼吸練習は骨盤底筋トレーニングにとってプラスの効果をもたらすか?
Bø et al. 2023は、骨盤底筋トレーニング(PFMT)に加えて呼吸練習を加えると、その結果はどうなるのかを調査したシステマティックレビューになります。
一部の調査において、呼気で骨盤底筋が上昇することが観察されていますが、PFMTに比較して、より強い上昇効果があるかどうかに関しては、このレビューからは支持されていません。
なおこの論文においては、呼吸法単独による骨盤底筋の活動も計測されていますが、随意収縮に比べて、その収縮力は小さかったことがみられました。(※上昇力とは別)
あくまでこの論文ベースですが、呼吸練習による骨盤底筋のトレーニングを追加、あるいは代替する論拠としてしようするのは難しそうです。
ベッドサイドでの推論
今回の内容を簡単にまとめると
・骨盤底は呼吸との同期性はありそう
・傾向として呼気で上昇、吸気で下降
・ただし、個人間でのばらつき、動作による変化がありそう
・IAPは腹部のみでの純粋な圧力ではなさそう
このような結論からみると、我々が臨床上で呼吸のみに依存して骨盤底の介入を行う根拠としてはまだまだ乏しいのかなと感じます。
とはいえ、しっかり吐くことで腹斜筋や腹横筋の活動が増加することは計測されていたりするし↓
dnm-pain-therapy.hatenablog.com
迷走神経のトーンにも変化があったり↓
dnm-pain-therapy.hatenablog.com
という結果が出ていたりするので、呼吸法に着目するのは決してマイナスにはならないかと思います。
参考文献
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Talasz H, Kremser C, Talasz HJ, Kofler M, Rudisch A. Breathing, (S)Training and the Pelvic Floor—A Basic Concept. Healthcare. 2022;10(6):1035. DOI: 10.3390/healthcare10061035
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Cowley D, Stafford RE, Worman RS, Hodges PW. Pelvic floor muscle length changes with breathing in males: A preliminary report. Respiratory Physiology & Neurobiology. 2023;316:104117. DOI: 10.1016/j.resp.2023.104117
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de Jong J, Dumoulin C, Junginger B, Zwahlen M, Bloch K, Burkhard F. Do differences in abdominal movement patterns during coughing and forced expiration affect cranioventral bladder neck displacement in healthy nulliparous subjects? Continence. 2023;5:100576. DOI: 10.1016/j.cont.2023.100576
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Rudavsky A, McLean L. How does the pelvic floor respond to modulations in trunk pressure induced by a variety of voicing tasks? A cross-sectional, observational study. Physiological Reports. 2024;12:e70090. DOI: 10.14814/phy2.70090
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Vesting S, Rodrigues MP, McLean L. Measurement and Interpretation of Intra-Abdominal Pressure During Physical Activity: A Scoping Review. International Urogynecology Journal. 2026. DOI: 10.1007/s00192-026-06635-2
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Niederauer S, Hunt G, Foreman KB, Merryweather A, Hitchcock R. Intrinsic Factors Contributing to Elevated Intra-Abdominal Pressure. Computer Methods in Biomechanics and Biomedical Engineering. 2023;26(8):941–951. DOI: 10.1080/10255842.2022.2100220
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Bø K, Driusso P, Jorge CH. Can you breathe yourself to a better pelvic floor? A systematic review. Neurourology and Urodynamics. 2023;42(6):1261–1279. DOI: 10.1002/nau.25218
