コリと痛みを考えるブログ

高輪で深層筋治療を行っています。

リブフレアを機能面からも考えてみる

1分でわかるこの記事の内容の要約

肋骨をみてみると、前に突出したり、横に開いたりしている状態がしばしば観察されます。今回はいわゆるリブフレアに伴うトピックを集めてみました。

臨床現場ではゴニオメーターで肋骨下角を測ることを一つの指標としても使えそうな報告もされていました。(健康若年者で約83°という参考数値)

ただし形だけの問題だけでなく、呼吸に伴う肋骨の可動、並びにお腹の動き方にも目を向けてみると、その機能性が見えてきます。

実際に腹部を前に出すような「横隔膜呼吸」では、呼吸に伴う換気量は上がるものの、胸部と腹部の非同期性が増加しているという報告がされており、呼吸法に伴う腹壁の筋群の活動もリブフレアにとっては重要な点になるかもしれません。

 

 

はじめに

今回扱うトピックは「リブフレア」になります。医学上の定義はなされていないにも関わらず、非常に市民権を得ているような概念かと思います。

リブ=肋骨、フレア=広がるというニュアンスが指す通り、見た目上肋骨が広がって見えるような現象を指しています。この現象を正面から取り扱った論文は今回見つからなかったのですが、近い内容や、補完するような内容の論文を紹介しながら、紐解いていきたいと思います。

 

肋骨の観察をするにあたって

巷で取り上げられているリブフレアも、実は定義がはっきりしていないのが実情かと重います。吸気時か?呼気時か?立位か?仰臥位か?など、その条件によっても、観察される角度は異なってくるかと思います。

また呼吸に伴う肋骨の動作に目を向けると

・吸気時、呼気時も拡がりっぱなし

・吸気時、呼気時も閉じっぱなし

・上部、下部の胸郭の動き

・腹部の動き

などが観察されます。この辺りも合わせて見ていくと、リブフレアがより多角的に見えてくる可能性があります。

以下では、このような内容を一つずつ見ていこうと思います。

 

肋骨の形をどうみるか?肋骨下角を指標にする見方から

まずはLee2018の報告から見ていきます。この研究では、胸骨下角(剣状突起と左右の第10肋骨の内側縁のライン)をX線、ゴニオメーターで測定したものの関連性が検討されています。

結果として、X線とゴニオメーターの測定値の間には高い相関性があり、評価の条件を同一にすれば、我々セラピストもベッドサイドで評価できる可能性を示唆しています。

ちなみにこの研究では健康な若年者25名が被験者として参加しており、肋骨下角の平均数値はX線では86°、ゴニオメーターで83°という数字が算出されています。

この数値を一般化するのは微妙ですが、一つの指標として使うのは良さそうな感じですね。(※ちなみにこの角度は仰向け、呼気後の数値になります)

 

「横隔膜呼吸」に伴う胸部、腹部の動きはどうなっているか?

ここではVieira et al. 2014の研究が参考になります。この研究では健康成人15名を対象に4種類の呼吸法に伴う胸郭、腹部の動きが検証されています。

腹部を大きく前に出す「横隔膜呼吸」では、腹部の寄与度は増加していましたが、胸郭の寄与度は低下しており、また胸郭と腹部の連動性の指標である同期性も低下していました。

ただしこの呼吸では腹部を前に出すような指示がされているため、通常の呼吸様式とは異なっている可能性もあります。

もし、このような呼吸法に取り組んでいる場合、肋骨下部の拡張はもしかしたら少なくなり、結果としてリブフレアという現象は観察されないかもしれませんが、その反面胸郭の拡張性は少なくなっており、適切に空気を取り込めているかという点においては疑問が湧きます。

 

横隔膜と肋骨の動きはどう関係しているのか?

横隔膜が動くと、肋骨がどのように動くのかについては、De Troyer & Wilson 2016の研究が非常に参考になります。

この研究では横隔膜の収縮に伴う胸郭の内部に起こる力について言及されています。横隔膜収縮時には単に上下方向の力が生まれるわけではなく、複数の力が同時に発生しています。

横隔膜の収縮(=横隔膜のドーム低下する)に伴って、まず胸腔内圧の低下が起こり、吸気が可能になります。この時に起こる力として

・胸腔内に尾側、内向きの力が働く

・横隔膜の付着部からは下部肋骨に頭側方向への力が働く

・腹腔内圧は下部肋骨を外側に押す力が働く

こんな力が働いていたりします。

これらの力の釣り合いの結果、見た目上、下部肋骨のフレアが観察される場合もあるかもしれません。単にフレアしているとだけみるのではなく、横隔膜のドームが下がらないのか、腹腔内圧の問題なのか、分けて考えてみるのもありかもしれませんね。(ちなみにこの辺がPRIでよく語られるところですね)

 

息を吐く際の腹壁の活動様式も見てみるべき

こちらは前回の内容でも紹介したKawabata & Shima 2023の研究が参考になります。

前回のブログ↓

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

この研究では呼吸に伴う腹壁筋の活動を測定されていました。

ざっくりの内容になりますが、努力呼気で内腹斜筋、腹横筋の活動が上がり、姿勢維持課題において外腹斜筋の活動が増加していました。

安静時に肋骨がフレアしている場合に、例えば努力呼気による肋骨下部の動きを確認して、それでも戻らない場合、腹壁の筋群に目を向けてみる、というのも良い感じがします。

 

呼吸課題で姿勢や動きの変化が出ることもある

Ristovski et al. 2025では興味深い(個人的に)報告がされています。

この研究では若年男性26人を対象に、壁を使った90-90のポジションで22分間の呼吸課題による変化を見ています。

こんな感じ↓

結果として胸郭の拡張性、体幹の側屈、肩甲骨の可動性に有意差が出ていました。

リブフレアとの直接的な関係性を見ているわけではありませんが、呼吸による動きの変化を見たものとしては有用かと思います。

キューイングとして、かなり呼気が長めの指示になっていたので、上にあげた腹壁との関連性で考えてみると良いかもしれません。

 

終わりに

リブフレアを形態的な見方だけでなく、機能面などからみる見方を研究とともに紹介してみました。調べてみて個人的には感じたのは、まずしっかりと息を吐かせることからだなということです。臨床で、まず吐いてみましょうとやってみると、2、3秒で限界の人とか結構多いですからね。

 

参考文献

  1. Lee W-H. Reliability and Validity of Measurement of Infrasternal Angle by Radiographic Methods. Journal of Musculoskeletal Science and Technology. 2018;2(2):33-37. doi: 10.29273/jmst.2018.2.2.33
  2. Vieira DSR, Mendes LPS, Elmiro NS, et al. Breathing exercises: influence on breathing pattern and thoracoabdominal motion in healthy subjects. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2014;18(6):544-552. doi: 10.1590/bjpt-rbf.2014.0048
  3. De Troyer A, Wilson TA. Action of the diaphragm on the rib cage. Journal of Applied Physiology. 2016;121:391-400. doi: 10.1152/japplphysiol.00268.2016
  4. Kawabata M, Shima N. Interaction of breathing pattern and posture on abdominal muscle activation and intra-abdominal pressure in healthy individuals: a comparative cross-sectional study. Scientific Reports. 2023;13:11338. doi: 10.1038/s41598-023-37629-5
  5. Ristovski A, Kapeleti M, Zlatović I, Mrdaković V. Acute Effects of Diaphragmatic Breathing on Trunk and Shoulder Mobility and Pulmonary Function in Healthy Young Adults. Journal of Functional Morphology and Kinesiology. 2025;10:325. doi: 10.3390/jfmk10030325

呼吸が浅い人は吐くことに注目してみるべきか?

1分でわかるこの記事の内容の要約

呼吸が浅いと感じる時、問題は「吸えない」ことだけではないかもしれません。「吐けない」ことにも着目してみると、呼吸の奥深さが見えてきます。意識的にしっかり吐くことで内腹斜筋や腹横筋の活動が高まり、腹腔内圧が高まりやすい可能性も報告されています。また呼吸は、横隔膜、骨盤底などの協調関係も関係し、姿勢の支え方にも繋がってくる可能性があります。

 

 

呼吸の仕方によって使う筋肉に差がある

Kawabata & Shima 2023の研究では、呼吸パターンと姿勢の違いによって、腹壁筋の活動や腹腔内圧に違いが出ることが示されています。

この研究では、

①Q-Bre:静かな鼻呼吸

②Deep-Bre:腹壁を膨らませる鼻からの深呼吸

③Forced-Expi:口すぼめで腹壁がへこむまで完全努力呼気

④Exertion-Inspi:腹壁を膨らませないよう腹筋を等尺性収縮させながら、胸郭を広げる鼻吸気

という4つの呼吸課題を、仰向けと肘つきプランク姿勢で比較しています。

この中で、②、③では呼吸量の増加が見られ、①、④では呼吸量の変化は見られませんでした。

興味深いのはTrA(腹横筋)とIO(内腹斜筋)の活動量の違いで

①、②ではTrAーIOの活動値が低いままでしたが、③のようにしっかり息を吐き切ることで、活動が増加するという結果でした。

またこの呼吸様式と姿勢課題の組み合わせも行われており、肘付き姿勢においてはEO(外腹斜筋)の活動が増加していたが、通常の呼吸様式においては③以外では大きな活動は見られませんでした。

つまり深呼吸と一言で言っても、その呼吸に伴う活動には差があり、思った以上に腹壁筋の活動はされていない可能性が示唆されています。

 

吐く力は変えられるっぽい

吐く力は、最大呼気圧:MEPという指標で評価されることがあります。そしてそのMEPの数値を検証した研究も報告されています。

Fabero-Garrido et al. 2024では、呼吸筋トレーニング(RMT)と慢性腰痛の関係性を調べていました。

通常の運動療法に加え、RMTを追加することにより、MEPの改善の可能性が示されていました。一方で腰痛に伴う機能障害、疼痛、また姿勢制御に対しての改善可能性はまだ高いとは言えない感じです。

呼気筋力トレーニング(EMST)と肺機能に関して調べたTempleman 2020では、Fabero-Garrido et al. 2024と同様にMEPの改善可能性は述べられていましたが、肺機能に関してはあまり改善可能性はなかったという結論になっています。

このあたりは呼吸筋トレーニングも万能ではないという見方が必要かもしれませんね。

横隔膜と骨盤底は関係ありかもしれない

呼吸のトピックとして非常におもしろい着眼点を提供してくれるのがSicilia-Gomez et al. 2022の研究です。この論文は、非特異的腰痛のある人と、ない人で横隔膜・腹壁筋・骨盤底筋の超音波所見の違いが報告されています。

この研究はやや癖があって、アブストラクトと表、結論が違ってみえるため、細かな言及は避けますが、この視点を提供してくれているという点では非常に参考になるものだと思います。

臨床にどう活かしていくか

「まずは1回息を吐き切ってみましょう」から、介入してみることを検討してみても良いかもしれません。Kawabata & Shima 2023の研究にあったように、一生懸命吐くことで、TrAとIOの活動が増加する、そして腹腔内圧(IAP)の高まりも計測されていました。これは裏を返すと、深呼吸をしても、腹壁や腹腔内圧の働きが十分に高まらない人がいる可能性があります。

 

呼吸のもつ力は強く前回のブログでは主に頚部周りのトラブルに関して取り上げてみました。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

また、姿勢や腰痛との関連に関しても取り上げています。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

単純な声掛けですが「まずは吐き切ってみましょう」から、介入していくと、さまざまな変化が見えてくるかも・・・しれませんね。

 

参考文献

(1)Kawabata M, Shima N.
『Interaction of breathing pattern and posture on abdominal muscle activation and intra-abdominal pressure in healthy individuals: a comparative cross-sectional study.
Scientific Reports.』 2023;13:11338.
doi: 10.1038/s41598-023-37629-5
(2)Fabero-Garrido et al.『
Effects of Respiratory Muscle Training on Functional Ability, Pain-Related Outcomes, and Respiratory Function in Individuals with Low Back Pain: Systematic Review and Meta-Analysis.』
Journal of Clinical Medicine. 2024;13(11):3053.
doi: 10.3390/jcm13113053
(3)Templeman L, Roberts F.『
Effectiveness of expiratory muscle strength training on expiratory strength, pulmonary function and cough in the adult population: a systematic review.
Physiotherapy.』 2020;106:43-51.
doi: 10.1016/j.physio.2019.06.002
(4)Sicilia-Gomez et al.『
Abdominal and Pelvic Floor Activity Related to Respiratory Diaphragmatic Activity in Subjects with and without Non-Specific Low Back Pain.
Diagnostics. 』2022;12(10):2530.
doi: 10.3390/diagnostics12102530

首や肩のつらさを、呼吸と身体の支えかたから考える

首や肩がつらい時、多くの方はまず「肩がこっている」「首の筋肉が硬い」と考えると思います。

実際に首や肩の筋肉が硬くなっている方は多いですし、そこを施術すると楽になることもあります。

ただ、臨床で見ていると、首や肩だけを見ても整理しきれない方がいます。

今回は、首や肩のつらさを「肩が硬いから」という見方だけで終わらせず、呼吸と身体の支え方という視点をいくつかの論文から考えてみます。

 

 

4つの論文

・1つ目
The Relationship Between Forward Head Posture and Neck Pain: a Systematic Review and Meta-Analysis

訳すと、『前方頭位と首の痛みの関係:系統的レビューとメタ解析
という2019年の総説です。

・2つ目
Effect of forward head posture on thoracic shape and respiratory function

訳すと、『前方頭位が胸郭の形状と呼吸機能に及ぼす影響』という2019年の研究です。

・3つ目
The effect of forward head posture on dynamic lung volumes in young adults: a systematic review

訳すと、『若年成人における前方頭位が動的肺気量に与える影響:系統的レビュー』という2024年の総説です。

・4つ目
Experimental neck muscle pain impairs standing balance in humans

訳すと、『実験的に生じた首の筋肉痛は、ヒトの立位バランスを低下させる』という2009年の研究です。

 

では内容をみていきましょう。

 

前方頭位は、成人の首痛を見る一つの指標になる

首や肩の問題を考える時に、よく話題に上がるのが頭部の前方偏位(FHP)です。

FHPとは、頭が身体の真上より前に出た姿勢のことです。(いわゆる「スマホ首」と呼ばれる姿勢)

Mahmoudらの2019年のレビューでは、成人および高齢者では、頚部痛がある人ほどFHPを示しやすい傾向が報告されています。
また、頚部痛の強さや機能障害とも関連が見られています。

一方で、思春期では同じような関連ははっきりしていません。(筋の柔軟性などの要因っぽい)
つまり、FHPと首の痛みの関係は、年齢によっても見え方が変わる可能性があります。

成人の首肩こりを見る時に、頭の位置や首での支え方を確認するための指標としてFHPを見るのが、良さそうかなという印象です。

 

FHPは、単に頭が前に出るだけではない

FHPというと、単に「頭が前に出ている姿勢」と思われやすいですが、この点をDenizらの2024年のレビューでは、少し細かく説明されています。

FHPでは、首の上下で違う代償が発生しており

・頭部と頚部の間(おそらく環椎後頭関節)では過伸展

・下位頚椎では屈曲

と説明されていました。

そして、この姿勢になると、呼吸補助筋の使われ方にも変化が出ます。

その代表格として挙げられるのが、胸鎖乳突筋や僧帽筋です。

実際に、FHPでは、これらの筋活動が高まりやすいという報告もあります。

さらに、呼吸機能の指標として、努力性肺活量(FVC)や1秒量(FEV1)が低下する傾向も示唆されています。

かなりざっくり言うと、FHPでは「しっかり吐き出せない」傾向になるようです。

 

FHPでは、吸う余裕も吐く余裕も落ちる

先ほどの項では、吐く余裕がなくなるという点を挙げてみました。さらに吸う方の余裕もなくなるかも?というのがKosekiらの2019年の研究で挙げられていました。

この研究では、FHPと頭部中立姿勢(NHP)を比較し、胸郭の形状や呼吸機能を見ています。

結果として、FHPではNHPに比べて、

・強制肺活量

・呼気予備量

・吸気予備量

・1秒量

・ピークフローが有意に低下していました。

簡単に言えば、吸えないし、吐けないという状況です。

前方頭位というと、どうしても「首の角度」や「姿勢が悪い」という話になりがちです。
こう見ると、首肩こりを「首が硬い」「肩がこっている」だけで片づけるのは、少しもったいないと感じます。

 

胸郭は「狭い=締まっている」ではない

Kosekiらの研究で個人的に面白かったのは、胸郭の変位についての内容です。個人的な印象としてリブフレア(肋骨が広がった状態)を問題視しており、ある程度肋骨が「締まった」状態はそこまで問題視していませんでした。

この点、Kosekiらの研究の内容は興味深いものになっていました。

FHPにおいては

・上部胸郭は前方へ、

・下部胸郭は前方かつ内方へ

それぞれ変位が見られたようです。

見た目状、締まって見えていても、もしかしたらそれは代償性の狭さであり、腹斜筋などが適切に働くことで機能的に締まった状態とは言えない可能性があります。この辺りは、より丁寧な観察が必要かなとも思います。

 

胸郭の左右差について

Kosekiらの研究では、最大吸気位で左上部胸郭が外側へ移動していた点も興味深い点でした。

これは「左がよく吸えている」という意味ではなく、胸郭が左右対称にきれいに広がっているわけではない、と読めるかなと思います。

PRIの文脈で見ると、L AIC / R BCパターンでは、右上部胸郭は潰れやすく、左上部胸郭は相対的に外側・前外側へ拡張しやすいと考えます。

つまり、左上部胸郭の外側変位は、左がよく吸えているというより、左上部胸郭へ空気が逃げていくという見方がもしかしたら妥当かなとも思います。

この辺りはPRIを学んで実践している立場としてはなかなか興味深い点でした。

 

首の痛みは、立っている時の支え方にも関係する

最後に、首の痛みと立位バランスの関係です。

VuillermeとPinsaultの2009年の研究では、実験的に頚部へ痛みを加えた時に、足底中心(CoP)と重心中心(CoM)に変化が出たことが示されています。

CoPは足圧中心、CoMは重心中心です。
ざっくり言えば、首に痛みが出ると、立っている時のバランスにも影響が出るということです。

この辺りはおそらく頚部の痛みによって、頚部からの固有感覚入力に異常が出現し、結果として姿勢制御に異常が出る可能性を示唆しています。

例えば

・足で支えている感覚が薄い
・背中や腰で固める
・呼吸が上に入りやすい
・肩や首の力を抜こうとしても抜けない

この辺を代償する役割としての「首」という見方も面白いかもしれません。

 

kimurachiryoin.com

 

参考文献

Mahmoud NF, Hassan KA, Abdelmajeed SF, Moustafa IM, Silva AG.
The Relationship Between Forward Head Posture and Neck Pain: a Systematic Review and Meta-Analysis.
Current Reviews in Musculoskeletal Medicine. 2019;12(4):562-577.

Koseki T, Kakizaki F, Hayashi S, Nishida N, Itoh M.
Effect of forward head posture on thoracic shape and respiratory function.
Journal of Physical Therapy Science. 2019;31(1):63-68.

Deniz Y, Ertekin D, Cokar D.
The effect of forward head posture on dynamic lung volumes in young adults: a systematic review.
Bulletin of Faculty of Physical Therapy. 2024;29:15.

Vuillerme N, Pinsault N.
Experimental neck muscle pain impairs standing balance in humans.
Experimental Brain Research. 2009;192(4):723-729.

横隔膜は呼吸だけの筋肉ではない。姿勢や慢性症状との関わりもありそう。

はじめに

 
横隔膜というと、呼吸によって使われる筋肉だというのが一般的なイメージかと思います。(もしかしたら筋肉というイメージもない方もいらっしゃるかもしれません。)
 
もちろん、それ自体は間違っていません。ただし臨床現場での肌感や、あるいは種々の文献を辿ってみると、横隔膜を単なる「呼吸の筋肉」として片づけるには、少し足りないなという感じもします。
 
ということで今回は、横隔膜が呼吸だけでなく、姿勢や身体の支え方にも関わっている可能性について、3つの論文を引用しつつ、紹介していきたいと思います。

 

 

3つの論文

 

まず1つ目は、『Anatomic connections of the diaphragm: influence of respiration on the body system
訳すと『横隔膜の解剖学的関係:呼吸が身体システムに及ぼす影響』という2013年の総説です。
 
2つ目が『Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain
訳すと『慢性腰痛のある人とない人における横隔膜の姿勢機能』という2012年の研究です。
 
そして3つ目が『The effect of diaphragm training on lumbar stabilizer muscles: a new concept for improving segmental stability in the case of low back pain
訳すと『横隔膜トレーニングが腰部安定化筋に及ぼす影響:腰痛における椎間関節の安定性を高めるための新たな概念』という2018年の研究です。
 
さてそれぞれの内容を見ていきましょう。

どんな論文か?(ざっくりまとめ)

 

1:横隔膜が単独で働く筋肉ではなく、胸郭、腹部、脊柱、骨盤、神経系まで広く関わっている存在として整理されている。横隔膜自体を「ハブ」として捉える見方を提供してくれる個人的にめちゃくちゃ面白い論文。
 
2:慢性腰痛群では健常者と比べて、負荷がかかった時の横隔膜の高さや角度に違いがあることを調べた論文。慢性腰痛群では健常者と比べて、横隔膜の位置が高く、可動性が小さい傾向が見られた。前部、中部の動きが小さく、中後部の傾斜が強くなるパターンが見られ、著者らはこれを横隔膜の姿勢機能以上と捉えている。
 
3:慢性腰痛患者に対し、横隔膜トレーニング(吸気に負荷)をかけた時の深層筋群の変化を合わせて検証した論文。横隔膜に加え、腹横筋、多裂筋などの筋厚にも変化が出た、特に興味深いのは多裂筋の変化は「左」がメインだった点。 
 

3本の論文から何が言えそうか?

「呼吸の乱れはそれ自体にとどまらず、姿勢や神経系の異常として波及していく可能性がある。」

横隔膜自体のつながりや機能は非常に広く(1)

・横隔膜と骨盤隔膜は同期して動く

・筋膜などを通じて、頚部から骨盤帯まで広く繋がる

・臓器との連絡もある

・主な支配は横隔神経だが、神経系全体の関連も無視しにくく、迷走神経の経路との接点も指摘されている

 

このあたりから見ても横隔膜を単なる呼吸筋として扱うには視野が狭すぎる可能性を感じます。

また腰痛患者においては。横隔膜自体の可動性の小ささも指摘されています。(2)

そうなると、腹部や胸郭を適切に使えずに、肩や首、あるいは腰などで支持するような動きにつながってくる可能性もあります。

実際に、腰椎での代償の可能性は指摘されていたり(2)、呼吸トレーニングでの腰椎安定筋群の肥大があること(3)から、この可能性は十分にありそうです。

 

臨床での応用は?

横隔膜を「呼吸のための筋肉」としてだけ見るか、「身体を支える仕組みにも関わる筋」として見るかで、臨床の見え方が大きく変わりそうです。

例えば慢性腰痛患者では横隔膜の可動域の小ささが触れられていましたが、もう少し見ていくと、横隔膜のドームが高く維持されやすい事が確認されています。(2)これは横隔膜自体を呼吸筋として使うか、それとも姿勢筋として使うか、という視点から繋げて考えてみると、なかなかおもしろそうな印象です。

実際に筋力発揮するよう場面では特に横隔膜の動きのエラーが出やすい傾向にもあるため(2)こういった課題遂行時の別の部位での代償動作を見ていくことは、その方の癖を発見するのに役立つかもしれません。

そのあたりPRIの観点は非常に参考になるなと感じながらこれらの論文を眺めていました。

 

kimurachiryoin.com

参考文献

 

(1)Bordoni B, Zanier E. Anatomic connections of the diaphragm: influence of respiration on the body system. Journal of Multidisciplinary Healthcare. 2013;6:281-291. doi:10.2147/JMDH.S45443

(2)Kolar P, Sulc J, Kyncl M, et al. Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2012;42(4):352-362. doi:10.2519/jospt.2012.3830

(3)Finta R, Nagy E, Bender T. The effect of diaphragm training on lumbar stabilizer muscles: a new concept for improving segmental stability in the case of low back pain. Journal of Pain Research. 2018;11:3031-3045. doi:10.2147/JPR.S181610

慢性腰痛患者では、副交感神経活動が低下しているかも?2021年のシステマティックレビューから

慢性痛を抱えていると、どうやら自律神経系の異常も認められるようで。

今回の論文はHRVという数値を用いて、慢性腰痛患者ではどんな状況になっているかを調査したシステマティックレビューを紹介していきます。

Heart rate variability in patients with low back pain: a systematic review:腰痛患者の心拍変動性:システマティックレビュー

では内容を見ていきます。

そもそもHRVって何だ?

HRV(心拍変動)とは、連続する心拍の間隔(RR間隔)のゆらぎのこと。自律神経系の調節能力や、感情処理の状態を客観的に図る指標として用いられる。

数値が高い=心身の適応力が高い=自律神経系の機能は十分に働いている

数値が低い=ストレスや適応力への低下=自律神経の機能の乱れ

つまり自律神経系の働きのバロメーターとして用いられるのがHRVという数値。

 

どんな論文?(ざっくり内容まとめ)

慢性腰痛患者では、健常者の対照群に比べてHRVの数値が有意に低下しているつまり交感神経優位の状態になっており、言い換えると環境変化やストレスに対しての適応力が低下している状態と言える。ただし、サンプル数が少なく、対照群の属性も揃えられていないため、限定的な示唆として提言されている。

レビューの限界点

今回はシステマティックレビューではあるものの対象となっている論文は2件、かつサンプル数も小さいものでした。(腰痛群153名、対照群62名、主に女性)

対照とされた群では、性別、年齢などを腰痛群と一致させられておらず、この比較もまた参考に留めておくべきかと思います。

またこのレビューでは急性、亜急性の場合においてはHRVがどのように反応するかは不明という点も挙げられます。

 

臨床応用への考察

こちらの記事では呼吸リズムについての研究を紹介していきました。 

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

ここでは0.1Hzの呼吸(10秒に1回)ののようなゆったりしたペースだと、HRVの数値が上がり副交感神経系(特に迷走神経)のトーンが上がるというものでした。

慢性腰痛では、このHRVの数値のベースラインが低下しているようで、つまり交感神経系のトーンが上がっていることが示唆されています。

通常の施術に加え、ゆったりとした呼吸を用いた副交感神経のトーンを上げていくことは、慢性腰痛に悩む方への一つの武器になるのではないでしょうか?

ただし前回のブログでは呼吸法を行うことでストレスがかかってしまうことも言及しています。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

十分に応用できる内容ではあるかもしれませんが、やはり使い方、介入のタイミングに関しては慎重になる必要がありそうです。

 

参考文献

Pamela M et al『Heart rate variability in patients with low back pain: a systematic review』Scand J Pain 2021; 21(3): 426–433,https://doi.org/10.1515/sjpain-2021-0006

 

呼吸法にもまずは「訓練」が必要かも?2019年の研究から

呼吸法自体は非常にありふれているものの、その有害事象についてはあまり目にすることはありませんでした。(というか気にもしていませんでした。)

今回はそんな内容に真正面から検証されている研究論文に出会ったので、紹介していきます。

Training of paced breathing at 0.1 Hz improves CO2 homeostasis and relaxation during a paced breathing task:0.1 Hzペース呼吸訓練はペース呼吸課題中のCO₂恒常性およびリラクゼーションを改善する

 

さて内容をみていきましょう。

 

どんな論文?(ざっくりまとめ)

ゆったりとした呼吸法(0.1hz=10秒に1回の呼吸)中の過換気症状の変化を見ていったもの。呼吸法に慣れていない方が急にやる場合、二酸化炭素を吐きすぎてしまい各種の不快な症状(めまい、ふらつき、手足のしびれ、頭痛、不安感など)を引き起こしてしまう。初めて呼吸法に取り組む場合、まずは訓練として7日間の期間を設けて行うと、呼吸法に伴う過換気症状を減少させることができる。

方法

・19〜29歳の被験者16名(男性8名、女性8名)
・これまで呼吸法の訓練をしたことのない
・情動、過換気症状を調べる尺度を利用する

手順

・7日間、毎日10分間のペース呼吸の訓練(吸気4秒、呼気6秒)
・初日、4日目、7日目でPetCO2(呼気中に含まれる二酸化炭素の量)を測定する

※30mmHzが基準、これ以上の数値だと過換気と判断される

・合わせて、情動状態(快、不快)の状態もチェックする

結果

7日間で呼吸数の減少
PetCO2の値も改善(初日:37.5%→4日目:12.5%→7日目:6.3%)
情動の数値も有意差は出ていないものの改善傾向になっている

身体にどんな変化が現れているか?

呼吸法に取り組む時には、まず「意識的に」呼吸を制御するところからスタートします。一生懸命にやろうと取り組むあまり、呼吸に対し「努力」を強いられるような状態になり、それが結果として「不快な」感覚を引き起こす可能性があります。
また同時に二酸化炭素を吐き出しすぎてしまうことで、脳内の二酸化炭素濃度が下がりすぎ、結果として「過換気」状態を生み出してしまいます。(=呼吸法の"有害事象"


ただし、この状態も3〜4日ほど経つと、ゆったりとした呼吸法が「自動化」できるようになり、呼吸に対しての努力度が減っていきます。そのためにゆったりとした呼吸法での感じられる「リラックス」状態を作れるようになり、結果として情動の値も減少するという流れのようです。

また脳内でもゆったりとした呼吸への「自動化」に伴い、二酸化炭素の排出もコントロールできるようになってくるため、過換気症状も落ち着いてくるという状態が出来上がってきます。

この体内での変化を確認できるまでにおおよそ7日間(1週間)は必要であるというのが今回の研究から確認できた趣旨になります。

 

ゆったりとした呼吸へ慣れ+脳内での換気能力の変化】のためには1週間かかるかも?というのを覚えておく必要がありそうですね。

 

臨床応用として

様々な呼吸法が世の中には存在します。それ自体は非常に効果があるかもしれませんが、これまで呼吸系のトレーニングを行ったことのない方においてはまず「訓練」が必要かもしれません。

もし呼吸にフォーカスしたものを処方する場合

経験の有無
呼吸中の不快感の有無
7日間はまず頑張ろう

といった声かけは必要かもしれませんね。

 

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参考文献

Mikołaj Tytus Szulczewski(2019)『Training of paced breathing at 0.1 Hz improves CO2 homeostasis and relaxation during a paced breathing task』PLoSONE 14(6): e0218550. doi.org/10.1371/journal.pone.0218550

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呼吸リズムはどれくらいだと効果があるか?高血圧患者の研究から

今回は呼吸に関するトピックを取り上げてみたいと思います。

『Heart Rate Variability Biofeedback Decreases Blood Pressure in Prehypertensive Subjects by Improving Autonomic Function and Baroreflex:自律神経機能と圧受容反射の改善による心拍変動バイオフィードバックが前高血圧被験者の血圧を低下させる』

 

この論文自体は高血圧患者に対しての血圧変動などを調査したものですが、呼吸と自律神経系の関係性について非常に参考になるものだったので、記事にしてみようと思います。

 

どんな論文だったか?(ざっくりまとめ)

高血圧患者に対しての呼吸の影響を調査したもの。心拍変動バイオフィードバック(HRVーBF)は血圧を低下させるとともに、心拍変動(HRV)と圧反射感受性(BRS)を増加させた。1日2回、20分間のトレーニングを5週間継続し、合計10回の測定を行った。この効果は単にゆっくりした呼吸(6回/分)よりも顕著に変化した。更にこの効果は少なくとも3ヶ月持続した。

 

呼吸数の目安は?

・HRV-BF群ではそれぞれ6.5、6.0、5.5、5.0、4.5回/分の中から、最も心拍変動の大きい呼吸数(呼吸周波数:RF)を確認して行った。

・腹式呼吸群(SAB群)では6回/分でゆったりとした呼吸を行った。

どんな反応が身体の中で起こったのか?

呼吸周波数(RF)での呼吸を行うことで以下のような反応が起こった
洞性不整脈(RSA)の幅が最大になることによってHRV(心拍変動)が高くなる
圧受容器反射の感度が上がることで、血圧調整能力が改善する
副交感神経の活性化(特に迷走神経トーンの上昇)
交感神経の抑制

臨床応用に向けて

コンピューター上の画面を用いたフィードバックの場合、ここまで挙げたような呼吸の反応が出てくるようですが、この研究で面白いのは単なる腹式呼吸(6回/分)でも似たような結果が出ていることです。

1分あたり6回の呼吸数ということは、10秒に1回の呼吸ということになりますが、ここまでゆったりとしたリズムで普段生活しているでしょうか?

またHRV-BF群では、セッションを行うたびに、1分あたりの呼吸数の低下が見られていることも興味深い点です。(セッション1:平均6.03回→セッション10:平均5.09回)ゆったりした呼吸数で、自律神経系(特に副交感神経系)の活動が伸びてくると、更にゆったりしたリズムに入りやすくなり・・・という好循環が生まれ、結果として呼吸数が減ってくるという流れでしょうか。

まずは6回/分で初めてみて、楽になってきたら少しずつペースを落としていって、どんどん副交感神経のトーンを上げていくといった流れが良さそうかなというのが今回のまとめです。

 

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参考文献

Guiping Lin et al,『Heart Rate Variability Biofeedback Decreases Blood Pressure in Prehypertensive Subjects by Improving Autonomic Function and Baroreflex』THE JOURNAL OF ALTERNATIVE AND COMPLEMENTARY MEDICINE Volume 18, Number 2, 2012, pp. 143–152