コリと痛みを考えるブログ

高輪で深層筋治療を行っています。

骨盤底と呼吸は連動して動く、けど一定の動きではなさそう

【1分でわかるこの記事の要約】

呼吸(横隔膜)と骨盤底筋の動きは吸気で下降、呼気で上昇という傾向は見られている。この同期生はありつつも、その動きには個人差、課題による差があり、全体としてかならず同じ方向に動くというような傾向は認められなかった。

また腹腔内圧(IAP)に関しても、純粋な腹腔内部の圧力というよりも、重力や加速度なども加味した複数の力によるものと考えられるため、その測定値を慎重に吟味する必要がありそう。

また今回取り上げたレビューにおいては、骨盤底に対してのトレーニング(PFMT)と呼吸練習を比較、または併用して行った際の追加効果も認められなかった。

 

呼吸の変化で骨盤底は動いてくるのか?

まず初めにTalasz et al. 2022の論文を見ていきましょう。この論文では主に横隔膜と骨盤底筋の関連性に関わる概念モデルが紹介されています。

論文中に取り上げられている一次研究の中で安静時における横隔膜との連動性は報告されていた。ざっくり紹介すると

【吸気で横隔膜が収縮(=下降)すると、骨盤底筋は下降する傾向】にあるということでした。

さて、この論文において筆者は動的MRIを用いて、この点を実証実験していました。

研究手法と結果ですが

 

吸気課題:深く息を吸った後に、声門を閉じて息を止めて手に強く力を入れる

→横隔膜と骨盤底が下降した

呼気課題:短く吸った後に骨盤底筋と腹筋を随意収縮させて、息を吐きながら手に強く力を入れる

→横隔膜と骨盤底は上昇した

 

ただしこちらで紹介したデータは、N=1の実験のため、どこまで一般化できるかは微妙なところです。なお呼気川では、随意収縮の指示も入っているため、純粋な呼気の結果として読むのは微妙かもしれません。

とはいえ、実際にデータとして示されているのは個人的に興味深いところでもあります。

 

連動性には一貫した動きが見られるのか?

次に紹介するのはCowley et al, 2023の研究です。こちらは健康な男性10名に対し、呼吸に同期したランドマーク(尿道中部、陰茎球、肛門直腸移行部、尿道膀胱移行部)の変化を超音波で観察したものになります。

 

こちらの研究では

・安静立位ではランドマークのうち、少なくとも1つの部位には呼吸と同期した動きが観察された

・仰臥位では10人中、7人が少なくとも1つの部位に同期した動きが観察された

 

さらに呼吸に対して負荷をかける死腔負荷試験では、呼吸との同期の傾向がさらに強くなったことが観察された。

ただし、その同期活動は一様の動きではなく、個人差があり、群平均で1mmを超える動きが見られたのも尿道膀胱移行部のみでした。全体としての傾向は平均的な移動距離は短く、かつ個人差、部位による差があったというのが妥当な見方かと思います。

まとめると、確かに呼吸との連動性は観察されたが、動く方向や距離、動作などは一様ではないというのがここでの結論なります。

 

咳や発声時にはまた違う反応かも?

さて、また違った条件で調査した研究を2つ紹介します。

まずはde Jong et al. 2023の研究です。

こちらは随意的な骨盤底筋の収縮ができる未経産の女性149名を対象に、咳と強制呼気の際に、立位、および背臥位で腹部と膀胱頚部がどのように動くかを検証したものになります。

筆者らの予想は、主に腹部に関しては内向きの動き(引き込むような動き)が想定されていましたが、多くの場合において、起こったのは外向きの動きが観察されました。

以下腹部と骨盤底の動きの結果を簡単にまとめてみます。

【立位】

①咳:内向き群で、骨盤底は頭幅部方向への動きが多かった

②発声:内向き群で、骨盤底は頭幅部方向への動きが多かった

【仰臥位】

①咳:内向き群で、骨盤底は頭幅部方向への動きが多かった

②発声:明確な差はみられなかった

 

ちなみにこの研究における強制呼気は「Hey」と発声するタイプのものであり、黙って息を吐くこととは分けて考える必要もあるかと思います。(というか日本人にはあまり馴染みのないやり方かも)

 

次に紹介するのは発声の種類による変化を調べたのがRudavsky et al. 2024の研究です。

この研究では、女性60名(うち38名が腹圧性尿失禁の経験あり)が通常の話し声、大声、高い声、低い声で発生した際に、骨盤底の動きを超音波で調べたものになります。

この研究では声量の違いによる違いがあり

通常の話し声:平均0.5mm

大声:平均1.53mm

それぞれ膀胱頚部の下降量が認められ、その差は約1mmほどありました。

ちなみに声の高さによる変化は認められませんでした。

 

ここまでの流れをまとめると、呼吸に伴う骨盤底筋の動きはあるが咳や発声まで含めると、呼気中に必ず上昇するわけではないという感じです。

 

測定された「腹圧」は何を計測しているのか?

腹圧に関して52の文献を調査したVesting et al. 2026で示されたのは、一概に腹圧という表現をされていても、その部位にはさまざまな候補があるということでした。

この研究中で示された腹圧の部位は

・胃:15研究

・食道:1研究

・直腸:12研究

・腟:21研究

・膀胱:4研究

・腹壁外側:1研究

となっており、測定に使用された機器もバラバラでした。

測定値に関しても、動作の種類によっても違いがあり、この「腹圧」には重力・加速度・呼吸などの要因も含まれているために、その測定値が何を指しているのかは注意してみたい点になります。

 

Niederauer et al. 2023の研究ではその具体例が挙げられており、骨盤底付近で記録される圧力は、腹筋収縮だけでなく、

・呼吸

・加速度

・動作方法

こういった要素との関連の可能性が指摘されています。

 

では呼吸練習は骨盤底筋トレーニングにとってプラスの効果をもたらすか?

Bø et al. 2023は、骨盤底筋トレーニング(PFMT)に加えて呼吸練習を加えると、その結果はどうなるのかを調査したシステマティックレビューになります。

一部の調査において、呼気で骨盤底筋が上昇することが観察されていますが、PFMTに比較して、より強い上昇効果があるかどうかに関しては、このレビューからは支持されていません。

なおこの論文においては、呼吸法単独による骨盤底筋の活動も計測されていますが、随意収縮に比べて、その収縮力は小さかったことがみられました。(※上昇力とは別)

あくまでこの論文ベースですが、呼吸練習による骨盤底筋のトレーニングを追加、あるいは代替する論拠としてしようするのは難しそうです。

 

ベッドサイドでの推論

今回の内容を簡単にまとめると

・骨盤底は呼吸との同期性はありそう

・傾向として呼気で上昇、吸気で下降

・ただし、個人間でのばらつき、動作による変化がありそう

・IAPは腹部のみでの純粋な圧力ではなさそう

このような結論からみると、我々が臨床上で呼吸のみに依存して骨盤底の介入を行う根拠としてはまだまだ乏しいのかなと感じます。

とはいえ、しっかり吐くことで腹斜筋や腹横筋の活動が増加することは計測されていたりするし↓

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

迷走神経のトーンにも変化があったり↓

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

という結果が出ていたりするので、呼吸法に着目するのは決してマイナスにはならないかと思います。

 

 

参考文献

  1. Talasz H, Kremser C, Talasz HJ, Kofler M, Rudisch A. Breathing, (S)Training and the Pelvic Floor—A Basic Concept. Healthcare. 2022;10(6):1035. DOI: 10.3390/healthcare10061035

  2. Cowley D, Stafford RE, Worman RS, Hodges PW. Pelvic floor muscle length changes with breathing in males: A preliminary report. Respiratory Physiology & Neurobiology. 2023;316:104117. DOI: 10.1016/j.resp.2023.104117

  3. de Jong J, Dumoulin C, Junginger B, Zwahlen M, Bloch K, Burkhard F. Do differences in abdominal movement patterns during coughing and forced expiration affect cranioventral bladder neck displacement in healthy nulliparous subjects? Continence. 2023;5:100576. DOI: 10.1016/j.cont.2023.100576

  4. Rudavsky A, McLean L. How does the pelvic floor respond to modulations in trunk pressure induced by a variety of voicing tasks? A cross-sectional, observational study. Physiological Reports. 2024;12:e70090. DOI: 10.14814/phy2.70090

  5. Vesting S, Rodrigues MP, McLean L. Measurement and Interpretation of Intra-Abdominal Pressure During Physical Activity: A Scoping Review. International Urogynecology Journal. 2026. DOI: 10.1007/s00192-026-06635-2

  6. Niederauer S, Hunt G, Foreman KB, Merryweather A, Hitchcock R. Intrinsic Factors Contributing to Elevated Intra-Abdominal Pressure. Computer Methods in Biomechanics and Biomedical Engineering. 2023;26(8):941–951. DOI: 10.1080/10255842.2022.2100220

  7. Bø K, Driusso P, Jorge CH. Can you breathe yourself to a better pelvic floor? A systematic review. Neurourology and Urodynamics. 2023;42(6):1261–1279. DOI: 10.1002/nau.25218

左右非対称な身体なのに、呼吸運動は対称的?

【1分でわかるこの記事の内容の要約】

人の身体はさまざまな左右差が見られます。左右の肺の大きさが異なり、胸郭の形や横隔膜の厚さ、移動距離にも左右差や部位による差が報告されています。

その一方で、成人における安静呼吸を胸郭と腹壁の全体で見た右側の寄与率はおおよそ50%となっていました。

構造や局所の動きにおいて、明らかに左右差が存在するにも関わらず、表出される動きにおいては左右の対称性が見られる結果となっています。

このブログでは、構造や機能の局所の違い、胸郭全体としての呼吸運動がどう展開されているかを6本の論文をもとに考えていきます。

 

 

はじめに

人の身体には内臓の配置や骨格の形、あるいは脳の機能など、さまざまな左右差が存在します。呼吸に携わる横隔膜や肺の構造にも左右差は見られ、左右における構造はまったく同じ構造ではありません。

では、こんな左右非対称な構造から表出される呼吸運動にも非対称性が見られるのでしょうか?

今回はそんな若干マニアックとも思える内容を、いくつかの論文の内容をもとに考えていこうと思います。

 

ちなみに左右差に関しては、いくつかのブログでも簡単に取り上げていたりするので、ぜひご参照ください。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

胸郭と肺の左右差はどうなっているか?

まず、2つの報告から、今日書くと肺の左右差を見ていこうと思います。

まず胸郭の形状に関して、Abbott et al. 2025の報告が参考になります。この研究では、健康な若年女性50名の胸郭をCT画像を用いて評価を行っています。

この研究では静止した呼吸時において、上部の胸郭の位置は70%が左前方に、30%が右前方に突出していたと報告されています。全員に一様な左右差が認められたわけではないですが、左が前方にあるとという傾向が見られたことは非常に興味深い点です。

 

次にWu et al. 2022では深吸気と深呼気の息止めCTから左右の肺と各肺葉肺の容積変化を調べています。

深呼気時の息止め時の肺容積の中央値は右2449mL、左が2069mLと吸気時における左右差が認められました。この辺りは肺の大きさにそもそも左右差があると考えると、予想通りといったところでしょうか。

この2つの研究をまとめると、胸郭の位置は左前方にある傾向+肺容積は右が大きいという傾向が見えてきました。

 

胸郭全体の動きは左右対称に近かった

Gaillard et al. 2026の内容はここまで上げてきた左右差からみると、かなり不思議な結論になっていると感じます。

この論文は、健康な方の胸壁全体の動きについて20の研究まとめたシステマティックレビューになります。

そのうちの4研究、54名の調査をまとめた結果、成人男性の安静呼吸における右側の胸壁全体が呼吸に関与する割合は、おおよそ50%(つまりほぼ半分)となっており、胸壁全体の動きをみてみると、ほぼ左右均等に動いていることがわかりました。

ただし細かく見てみると、肺側胸壁は51.02%、腹部側胸壁は49.25%、腹部は49.33%と微妙な数値のズレは存在していましたが、いずれも95%信頼区間が50%をまたいでおり、部位ごとに明確な優位側があったとは言い切れません。

左右非対称な身体をもつ人が、呼吸に伴う胸壁の動きは左右でほぼ均等になるという点、非常に興味深いと思いませんか?

 

横隔膜の動きはどうなっているか?

構造的な左右差があっても、実際に呼吸様式を見たときには、左右対称な動きが見えてきました。

ということは、どこかで何かが調整した結果、対称性の動きになっているのでは?と考えられます。その一つの調整役と考えられるのが、横隔膜の存在です。ここでは2つの研究内容をもとに見ていきましょう。

まずはYang et al. 2022の報告をみてみます。こちらは正常な肺機能をもつ男性74名を対象に調査に安静呼吸と深呼吸時の胸郭および横隔膜の動きをdynamicMRIで調べています。

まず、上部、中部、下部胸郭の前後径の安静時呼吸、および深呼吸時の動きに関しては、左右差は確認されませんでした。この辺りはGaillard et al. 2026の結果と同じような方向性になっていますね。

一方で右横隔膜の動きにフォーカスをあてると、そこには若干の左右差が見られています。

安静時呼吸時の右横隔膜の移動距離比は、右横隔膜の前方1.04、頂点1.08、後方1.09と、各部位において一様ではありませんでした。読み方的には、横隔膜という組織が一斉に動くというよりは、頂点と後方の動きが少し大きくなっていたという感じですね。

この研究では左横隔膜に関しては計測がされていませんが、横隔膜の左右差を見ていく上で、興味深い報告の一つになっています。

 

次に見ていくのがYamada et al. 2024の研究です。この研究は健康な日本人109名の左右の横隔膜をエコーを用いて評価がされています。

調査の結果は、呼気終末における横隔膜の厚みが右1.7mm、左が1.6mmとやや右に厚みが見られました。

また安静呼吸時の横隔膜の移動距離を見てみると右1.7cm、左1.9cmとなっており、こちらは左の方が少し動く幅が大きいという結果となっていました。

この論文からは、呼吸において右横隔膜がやや厚く、動きに関しては左の方が大きいという傾向があるのかもしれないという点が見えてきました。

この2つの研究から言えることは横隔膜の動きは部位によっても一様ではなく、さらに左右で見たときには厚みも移動距離も違う可能性もあるということです。

 

では条件を変えてみたときにはどうなるか?

Boussuges et al. 2021では、座位における左右の横隔膜の移動距離を測定しています。この研究においては座位での安静呼吸の横隔膜の平均移動距離は左右でかなり近いという結果が出ています。

実際の数値を見てみると、女性:右1.7cm、左1.7cmに対し、男性:右1.9cm、左2.0cmとほぼ1:1であるという報告となっています。

ただし、この研究においては集団の平均値は1:1でも個人の数値をみるとかなりばらつきが出ています。

左右比をみてみると女性で0.5~1.6、男性では0.4~1.5という数値が出ています。

(※この数値は右の移動距離÷左の移動距離という計算式で出されています。0.5ということは、右の移動距離は左に比べて0.5倍だったという結果として読めます。)

平均値を取ると左右差はあまりなさそうだけども、個人の数値を丁寧にみていくと、結局、左右差はありそうというのがこの論文から読み取れる結果だと思います。

 

では、左右差はどこにいってしまうのか?

ここまで6本の論文の内容を見ながら、主に呼吸に関わる左右差についてみていきました。

ここまでの内容をまとめてみると

・構造的な左右差は存在する(肺葉の数、胸郭の位置など)

・横隔膜の運動量にも差があるっぽい

・しかし、呼吸への寄与率を見てみると、おおよそ左右は50%ずつ動いている

こういった結果を改めて眺めてみると、局所的な違いが左右にある前提のもと、全体としてはまとまった動きとして表出されている感じが見えてきます。

個人的にはこのトピックは非常に興味深く見えるとともに、これが私たちの介入を左右対称にしたくなってしまう要因なのかとも感じています。

「左右差はどうやらあるようだ。ただし目に見える範囲においてはそれが見えにくい。」

というのが今回見えてきた実情かと思います。

最後に

呼吸の左右差というトピックから、改めてヒトという存在を見直してみましたが、余計にわからなくなってきたというのが正直な意見かと感じています。

ただ無理に左右差を是正する必要はなさそうだというのも同時に得られた知見かと感じています。

今後、さらに他の部位も深掘りしてみるとさらにおもしろい結論になりそうな気がします。

 

kimurachiryoin.com

参考文献

  1. Abbott EN, Reddy AP, Coleman A, et al. Quantification of Chest Wall Asymmetry in Healthy Females Using Standardized Computed Tomography–Derived Curve Modeling: A Proof of Concept. Aesthetic Surgery Journal Open Forum. 2025;7:ojaf116. https://doi.org/10.1093/asjof/ojaf116
  2. Wu F, Lin C, Chen L, et al. Asynchronous changes of normal lung lobes during respiration based on quantitative computed tomography (CT). Quantitative Imaging in Medicine and Surgery. 2022;12(3):2018–2034. https://doi.org/10.21037/qims-21-348
  3. Gaillard L, Stubbe L, Riquet D, Houel N. Chest wall motion symmetry during breathing – a systematic review with meta-analysis providing normative value in healthy subjects. Respiratory Medicine and Research. 2026;89:101244. https://doi.org/10.1016/j.resmer.2025.101244
  4. Yang X, Sun H, Deng M, et al. Characteristics of Diaphragmatic and Chest Wall Motion in People with Normal Pulmonary Function: A Study with Free-Breathing Dynamic MRI. Journal of Clinical Medicine. 2022;11(24):7276. https://doi.org/10.3390/jcm11247276
  5. Yamada T, Minami T, Yoshino S, et al. Diaphragm Ultrasonography: Reference Values and Influencing Factors for Thickness, Thickening Fraction, and Excursion in the Seated Position. Lung. 2024;202:83–90. https://doi.org/10.1007/s00408-023-00662-2
  6. Boussuges A, Finance J, Chaumet G, Brégeon F. Diaphragmatic motion recorded by M-mode ultrasonography: limits of normality. ERJ Open Research. 2021;7(1):00714-2020. https://doi.org/10.1183/23120541.00714-2020

リブフレアを機能面からも考えてみる

【1分でわかるこの記事の内容の要約】

肋骨をみてみると、前に突出したり、横に開いたりしている状態がしばしば観察されます。今回はいわゆるリブフレアに伴うトピックを集めてみました。

臨床現場ではゴニオメーターで肋骨下角を測ることを一つの指標としても使えそうな報告もされていました。(健康若年者で約83°という参考数値)

ただし形だけの問題だけでなく、呼吸に伴う肋骨の可動、並びにお腹の動き方にも目を向けてみると、その機能性が見えてきます。

実際に腹部を前に出すような「横隔膜呼吸」では、呼吸に伴う換気量は上がるものの、胸部と腹部の非同期性が増加しているという報告がされており、呼吸法に伴う腹壁の筋群の活動もリブフレアにとっては重要な点になるかもしれません。

 

 

はじめに

今回扱うトピックは「リブフレア」になります。医学上の定義はなされていないにも関わらず、非常に市民権を得ているような概念かと思います。

リブ=肋骨、フレア=広がるというニュアンスが指す通り、見た目上肋骨が広がって見えるような現象を指しています。この現象を正面から取り扱った論文は今回見つからなかったのですが、近い内容や、補完するような内容の論文を紹介しながら、紐解いていきたいと思います。

 

肋骨の観察をするにあたって

巷で取り上げられているリブフレアも、実は定義がはっきりしていないのが実情かと重います。吸気時か?呼気時か?立位か?仰臥位か?など、その条件によっても、観察される角度は異なってくるかと思います。

また呼吸に伴う肋骨の動作に目を向けると

・吸気時、呼気時も拡がりっぱなし

・吸気時、呼気時も閉じっぱなし

・上部、下部の胸郭の動き

・腹部の動き

などが観察されます。この辺りも合わせて見ていくと、リブフレアがより多角的に見えてくる可能性があります。

以下では、このような内容を一つずつ見ていこうと思います。

 

肋骨の形をどうみるか?肋骨下角を指標にする見方から

まずはLee2018の報告から見ていきます。この研究では、胸骨下角(剣状突起と左右の第10肋骨の内側縁のライン)をX線、ゴニオメーターで測定したものの関連性が検討されています。

結果として、X線とゴニオメーターの測定値の間には高い相関性があり、評価の条件を同一にすれば、我々セラピストもベッドサイドで評価できる可能性を示唆しています。

ちなみにこの研究では健康な若年者25名が被験者として参加しており、肋骨下角の平均数値はX線では86°、ゴニオメーターで83°という数字が算出されています。

この数値を一般化するのは微妙ですが、一つの指標として使うのは良さそうな感じですね。(※ちなみにこの角度は仰向け、呼気後の数値になります)

 

「横隔膜呼吸」に伴う胸部、腹部の動きはどうなっているか?

ここではVieira et al. 2014の研究が参考になります。この研究では健康成人15名を対象に4種類の呼吸法に伴う胸郭、腹部の動きが検証されています。

腹部を大きく前に出す「横隔膜呼吸」では、腹部の寄与度は増加していましたが、胸郭の寄与度は低下しており、また胸郭と腹部の連動性の指標である同期性も低下していました。

ただしこの呼吸では腹部を前に出すような指示がされているため、通常の呼吸様式とは異なっている可能性もあります。

もし、このような呼吸法に取り組んでいる場合、肋骨下部の拡張はもしかしたら少なくなり、結果としてリブフレアという現象は観察されないかもしれませんが、その反面胸郭の拡張性は少なくなっており、適切に空気を取り込めているかという点においては疑問が湧きます。

 

横隔膜と肋骨の動きはどう関係しているのか?

横隔膜が動くと、肋骨がどのように動くのかについては、De Troyer & Wilson 2016の研究が非常に参考になります。

この研究では横隔膜の収縮に伴う胸郭の内部に起こる力について言及されています。横隔膜収縮時には単に上下方向の力が生まれるわけではなく、複数の力が同時に発生しています。

横隔膜の収縮(=横隔膜のドーム低下する)に伴って、まず胸腔内圧の低下が起こり、吸気が可能になります。この時に起こる力として

・胸腔内に尾側、内向きの力が働く

・横隔膜の付着部からは下部肋骨に頭側方向への力が働く

・腹腔内圧は下部肋骨を外側に押す力が働く

こんな力が働いていたりします。

これらの力の釣り合いの結果、見た目上、下部肋骨のフレアが観察される場合もあるかもしれません。単にフレアしているとだけみるのではなく、横隔膜のドームが下がらないのか、腹腔内圧の問題なのか、分けて考えてみるのもありかもしれませんね。(ちなみにこの辺がPRIでよく語られるところですね)

 

息を吐く際の腹壁の活動様式も見てみるべき

こちらは前回の内容でも紹介したKawabata & Shima 2023の研究が参考になります。

前回のブログ↓

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

この研究では呼吸に伴う腹壁筋の活動を測定されていました。

ざっくりの内容になりますが、努力呼気で内腹斜筋、腹横筋の活動が上がり、姿勢維持課題において外腹斜筋の活動が増加していました。

安静時に肋骨がフレアしている場合に、例えば努力呼気による肋骨下部の動きを確認して、それでも戻らない場合、腹壁の筋群に目を向けてみる、というのも良い感じがします。

 

呼吸課題で姿勢や動きの変化が出ることもある

Ristovski et al. 2025では興味深い(個人的に)報告がされています。

この研究では若年男性26人を対象に、壁を使った90-90のポジションで22分間の呼吸課題による変化を見ています。

こんな感じ↓

結果として胸郭の拡張性、体幹の側屈、肩甲骨の可動性に有意差が出ていました。

リブフレアとの直接的な関係性を見ているわけではありませんが、呼吸による動きの変化を見たものとしては有用かと思います。

キューイングとして、かなり呼気が長めの指示になっていたので、上にあげた腹壁との関連性で考えてみると良いかもしれません。

 

終わりに

リブフレアを形態的な見方だけでなく、機能面などからみる見方を研究とともに紹介してみました。調べてみて個人的には感じたのは、まずしっかりと息を吐かせることからだなということです。臨床で、まず吐いてみましょうとやってみると、2、3秒で限界の人とか結構多いですからね。

 

参考文献

  1. Lee W-H. Reliability and Validity of Measurement of Infrasternal Angle by Radiographic Methods. Journal of Musculoskeletal Science and Technology. 2018;2(2):33-37. doi: 10.29273/jmst.2018.2.2.33
  2. Vieira DSR, Mendes LPS, Elmiro NS, et al. Breathing exercises: influence on breathing pattern and thoracoabdominal motion in healthy subjects. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2014;18(6):544-552. doi: 10.1590/bjpt-rbf.2014.0048
  3. De Troyer A, Wilson TA. Action of the diaphragm on the rib cage. Journal of Applied Physiology. 2016;121:391-400. doi: 10.1152/japplphysiol.00268.2016
  4. Kawabata M, Shima N. Interaction of breathing pattern and posture on abdominal muscle activation and intra-abdominal pressure in healthy individuals: a comparative cross-sectional study. Scientific Reports. 2023;13:11338. doi: 10.1038/s41598-023-37629-5
  5. Ristovski A, Kapeleti M, Zlatović I, Mrdaković V. Acute Effects of Diaphragmatic Breathing on Trunk and Shoulder Mobility and Pulmonary Function in Healthy Young Adults. Journal of Functional Morphology and Kinesiology. 2025;10:325. doi: 10.3390/jfmk10030325

呼吸が浅い人は吐くことに注目してみるべきか?

【1分でわかるこの記事の内容の要約】

呼吸が浅いと感じる時、問題は「吸えない」ことだけではないかもしれません。「吐けない」ことにも着目してみると、呼吸の奥深さが見えてきます。意識的にしっかり吐くことで内腹斜筋や腹横筋の活動が高まり、腹腔内圧が高まりやすい可能性も報告されています。また呼吸は、横隔膜、骨盤底などの協調関係も関係し、姿勢の支え方にも繋がってくる可能性があります。

 

 

呼吸の仕方によって使う筋肉に差がある

Kawabata & Shima 2023の研究では、呼吸パターンと姿勢の違いによって、腹壁筋の活動や腹腔内圧に違いが出ることが示されています。

この研究では、

①Q-Bre:静かな鼻呼吸

②Deep-Bre:腹壁を膨らませる鼻からの深呼吸

③Forced-Expi:口すぼめで腹壁がへこむまで完全努力呼気

④Exertion-Inspi:腹壁を膨らませないよう腹筋を等尺性収縮させながら、胸郭を広げる鼻吸気

という4つの呼吸課題を、仰向けと肘つきプランク姿勢で比較しています。

この中で、②、③では呼吸量の増加が見られ、①、④では呼吸量の変化は見られませんでした。

興味深いのはTrA(腹横筋)とIO(内腹斜筋)の活動量の違いで

①、②ではTrAーIOの活動値が低いままでしたが、③のようにしっかり息を吐き切ることで、活動が増加するという結果でした。

またこの呼吸様式と姿勢課題の組み合わせも行われており、肘付き姿勢においてはEO(外腹斜筋)の活動が増加していたが、通常の呼吸様式においては③以外では大きな活動は見られませんでした。

つまり深呼吸と一言で言っても、その呼吸に伴う活動には差があり、思った以上に腹壁筋の活動はされていない可能性が示唆されています。

 

吐く力は変えられるっぽい

吐く力は、最大呼気圧:MEPという指標で評価されることがあります。そしてそのMEPの数値を検証した研究も報告されています。

Fabero-Garrido et al. 2024では、呼吸筋トレーニング(RMT)と慢性腰痛の関係性を調べていました。

通常の運動療法に加え、RMTを追加することにより、MEPの改善の可能性が示されていました。一方で腰痛に伴う機能障害、疼痛、また姿勢制御に対しての改善可能性はまだ高いとは言えない感じです。

呼気筋力トレーニング(EMST)と肺機能に関して調べたTempleman 2020では、Fabero-Garrido et al. 2024と同様にMEPの改善可能性は述べられていましたが、肺機能に関してはあまり改善可能性はなかったという結論になっています。

このあたりは呼吸筋トレーニングも万能ではないという見方が必要かもしれませんね。

横隔膜と骨盤底は関係ありかもしれない

呼吸のトピックとして非常におもしろい着眼点を提供してくれるのがSicilia-Gomez et al. 2022の研究です。この論文は、非特異的腰痛のある人と、ない人で横隔膜・腹壁筋・骨盤底筋の超音波所見の違いが報告されています。

この研究はやや癖があって、アブストラクトと表、結論が違ってみえるため、細かな言及は避けますが、この視点を提供してくれているという点では非常に参考になるものだと思います。

臨床にどう活かしていくか

「まずは1回息を吐き切ってみましょう」から、介入してみることを検討してみても良いかもしれません。Kawabata & Shima 2023の研究にあったように、一生懸命吐くことで、TrAとIOの活動が増加する、そして腹腔内圧(IAP)の高まりも計測されていました。これは裏を返すと、深呼吸をしても、腹壁や腹腔内圧の働きが十分に高まらない人がいる可能性があります。

 

呼吸のもつ力は強く前回のブログでは主に頚部周りのトラブルに関して取り上げてみました。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

また、姿勢や腰痛との関連に関しても取り上げています。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

 

単純な声掛けですが「まずは吐き切ってみましょう」から、介入していくと、さまざまな変化が見えてくるかも・・・しれませんね。

 

参考文献

(1)Kawabata M, Shima N.
『Interaction of breathing pattern and posture on abdominal muscle activation and intra-abdominal pressure in healthy individuals: a comparative cross-sectional study.
Scientific Reports.』 2023;13:11338.
doi: 10.1038/s41598-023-37629-5
(2)Fabero-Garrido et al.『
Effects of Respiratory Muscle Training on Functional Ability, Pain-Related Outcomes, and Respiratory Function in Individuals with Low Back Pain: Systematic Review and Meta-Analysis.』
Journal of Clinical Medicine. 2024;13(11):3053.
doi: 10.3390/jcm13113053
(3)Templeman L, Roberts F.『
Effectiveness of expiratory muscle strength training on expiratory strength, pulmonary function and cough in the adult population: a systematic review.
Physiotherapy.』 2020;106:43-51.
doi: 10.1016/j.physio.2019.06.002
(4)Sicilia-Gomez et al.『
Abdominal and Pelvic Floor Activity Related to Respiratory Diaphragmatic Activity in Subjects with and without Non-Specific Low Back Pain.
Diagnostics. 』2022;12(10):2530.
doi: 10.3390/diagnostics12102530

首や肩のつらさを、呼吸と身体の支えかたから考える

首や肩がつらい時、多くの方はまず「肩がこっている」「首の筋肉が硬い」と考えると思います。

実際に首や肩の筋肉が硬くなっている方は多いですし、そこを施術すると楽になることもあります。

ただ、臨床で見ていると、首や肩だけを見ても整理しきれない方がいます。

今回は、首や肩のつらさを「肩が硬いから」という見方だけで終わらせず、呼吸と身体の支え方という視点をいくつかの論文から考えてみます。

 

 

4つの論文

・1つ目
『The Relationship Between Forward Head Posture and Neck Pain: a Systematic Review and Meta-Analysis』

訳すと、『前方頭位と首の痛みの関係:系統的レビューとメタ解析』
という2019年の総説です。

・2つ目
『Effect of forward head posture on thoracic shape and respiratory function』

訳すと、『前方頭位が胸郭の形状と呼吸機能に及ぼす影響』という2019年の研究です。

・3つ目
『The effect of forward head posture on dynamic lung volumes in young adults: a systematic review』

訳すと、『若年成人における前方頭位が動的肺気量に与える影響:系統的レビュー』という2024年の総説です。

・4つ目
『Experimental neck muscle pain impairs standing balance in humans』

訳すと、『実験的に生じた首の筋肉痛は、ヒトの立位バランスを低下させる』という2009年の研究です。

 

では内容をみていきましょう。

 

前方頭位は、成人の首痛を見る一つの指標になる

首や肩の問題を考える時に、よく話題に上がるのが頭部の前方偏位(FHP)です。

FHPとは、頭が身体の真上より前に出た姿勢のことです。(いわゆる「スマホ首」と呼ばれる姿勢)

Mahmoudらの2019年のレビューでは、成人および高齢者では、頚部痛がある人ほどFHPを示しやすい傾向が報告されています。
また、頚部痛の強さや機能障害とも関連が見られています。

一方で、思春期では同じような関連ははっきりしていません。(筋の柔軟性などの要因っぽい)
つまり、FHPと首の痛みの関係は、年齢によっても見え方が変わる可能性があります。

成人の首肩こりを見る時に、頭の位置や首での支え方を確認するための指標としてFHPを見るのが、良さそうかなという印象です。

 

FHPは、単に頭が前に出るだけではない

FHPというと、単に「頭が前に出ている姿勢」と思われやすいですが、この点をDenizらの2024年のレビューでは、少し細かく説明されています。

FHPでは、首の上下で違う代償が発生しており

・頭部と頚部の間(おそらく環椎後頭関節)では過伸展

・下位頚椎では屈曲

と説明されていました。

そして、この姿勢になると、呼吸補助筋の使われ方にも変化が出ます。

その代表格として挙げられるのが、胸鎖乳突筋や僧帽筋です。

実際に、FHPでは、これらの筋活動が高まりやすいという報告もあります。

さらに、呼吸機能の指標として、努力性肺活量(FVC)や1秒量(FEV1)が低下する傾向も示唆されています。

かなりざっくり言うと、FHPでは「しっかり吐き出せない」傾向になるようです。

 

FHPでは、吸う余裕も吐く余裕も落ちる

先ほどの項では、吐く余裕がなくなるという点を挙げてみました。さらに吸う方の余裕もなくなるかも?というのがKosekiらの2019年の研究で挙げられていました。

この研究では、FHPと頭部中立姿勢(NHP)を比較し、胸郭の形状や呼吸機能を見ています。

結果として、FHPではNHPに比べて、

・強制肺活量

・呼気予備量

・吸気予備量

・1秒量

・ピークフローが有意に低下していました。

簡単に言えば、吸えないし、吐けないという状況です。

前方頭位というと、どうしても「首の角度」や「姿勢が悪い」という話になりがちです。
こう見ると、首肩こりを「首が硬い」「肩がこっている」だけで片づけるのは、少しもったいないと感じます。

 

胸郭は「狭い=締まっている」ではない

Kosekiらの研究で個人的に面白かったのは、胸郭の変位についての内容です。個人的な印象としてリブフレア(肋骨が広がった状態)を問題視しており、ある程度肋骨が「締まった」状態はそこまで問題視していませんでした。

この点、Kosekiらの研究の内容は興味深いものになっていました。

FHPにおいては

・上部胸郭は前方へ、

・下部胸郭は前方かつ内方へ

それぞれ変位が見られたようです。

見た目状、締まって見えていても、もしかしたらそれは代償性の狭さであり、腹斜筋などが適切に働くことで機能的に締まった状態とは言えない可能性があります。この辺りは、より丁寧な観察が必要かなとも思います。

 

胸郭の左右差について

Kosekiらの研究では、最大吸気位で左上部胸郭が外側へ移動していた点も興味深い点でした。

これは「左がよく吸えている」という意味ではなく、胸郭が左右対称にきれいに広がっているわけではない、と読めるかなと思います。

PRIの文脈で見ると、L AIC / R BCパターンでは、右上部胸郭は潰れやすく、左上部胸郭は相対的に外側・前外側へ拡張しやすいと考えます。

つまり、左上部胸郭の外側変位は、左がよく吸えているというより、左上部胸郭へ空気が逃げていくという見方がもしかしたら妥当かなとも思います。

この辺りはPRIを学んで実践している立場としてはなかなか興味深い点でした。

 

首の痛みは、立っている時の支え方にも関係する

最後に、首の痛みと立位バランスの関係です。

VuillermeとPinsaultの2009年の研究では、実験的に頚部へ痛みを加えた時に、足底中心(CoP)と重心中心(CoM)に変化が出たことが示されています。

CoPは足圧中心、CoMは重心中心です。
ざっくり言えば、首に痛みが出ると、立っている時のバランスにも影響が出るということです。

この辺りはおそらく頚部の痛みによって、頚部からの固有感覚入力に異常が出現し、結果として姿勢制御に異常が出る可能性を示唆しています。

例えば

・足で支えている感覚が薄い
・背中や腰で固める
・呼吸が上に入りやすい
・肩や首の力を抜こうとしても抜けない

この辺を代償する役割としての「首」という見方も面白いかもしれません。

 

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参考文献

Mahmoud NF, Hassan KA, Abdelmajeed SF, Moustafa IM, Silva AG.
The Relationship Between Forward Head Posture and Neck Pain: a Systematic Review and Meta-Analysis.
Current Reviews in Musculoskeletal Medicine. 2019;12(4):562-577.

Koseki T, Kakizaki F, Hayashi S, Nishida N, Itoh M.
Effect of forward head posture on thoracic shape and respiratory function.
Journal of Physical Therapy Science. 2019;31(1):63-68.

Deniz Y, Ertekin D, Cokar D.
The effect of forward head posture on dynamic lung volumes in young adults: a systematic review.
Bulletin of Faculty of Physical Therapy. 2024;29:15.

Vuillerme N, Pinsault N.
Experimental neck muscle pain impairs standing balance in humans.
Experimental Brain Research. 2009;192(4):723-729.

横隔膜は呼吸だけの筋肉ではない。姿勢や慢性症状との関わりもありそう。

はじめに

 
横隔膜というと、呼吸によって使われる筋肉だというのが一般的なイメージかと思います。(もしかしたら筋肉というイメージもない方もいらっしゃるかもしれません。)
 
もちろん、それ自体は間違っていません。ただし臨床現場での肌感や、あるいは種々の文献を辿ってみると、横隔膜を単なる「呼吸の筋肉」として片づけるには、少し足りないなという感じもします。
 
ということで今回は、横隔膜が呼吸だけでなく、姿勢や身体の支え方にも関わっている可能性について、3つの論文を引用しつつ、紹介していきたいと思います。

 

 

3つの論文

 

まず1つ目は、『Anatomic connections of the diaphragm: influence of respiration on the body system』
訳すと『横隔膜の解剖学的関係:呼吸が身体システムに及ぼす影響』という2013年の総説です。
 
2つ目が『Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain』
訳すと『慢性腰痛のある人とない人における横隔膜の姿勢機能』という2012年の研究です。
 
そして3つ目が『The effect of diaphragm training on lumbar stabilizer muscles: a new concept for improving segmental stability in the case of low back pain』
訳すと『横隔膜トレーニングが腰部安定化筋に及ぼす影響:腰痛における椎間関節の安定性を高めるための新たな概念』という2018年の研究です。
 
さてそれぞれの内容を見ていきましょう。

どんな論文か?(ざっくりまとめ)

 

1:横隔膜が単独で働く筋肉ではなく、胸郭、腹部、脊柱、骨盤、神経系まで広く関わっている存在として整理されている。横隔膜自体を「ハブ」として捉える見方を提供してくれる個人的にめちゃくちゃ面白い論文。
 
2:慢性腰痛群では健常者と比べて、負荷がかかった時の横隔膜の高さや角度に違いがあることを調べた論文。慢性腰痛群では健常者と比べて、横隔膜の位置が高く、可動性が小さい傾向が見られた。前部、中部の動きが小さく、中後部の傾斜が強くなるパターンが見られ、著者らはこれを横隔膜の姿勢機能以上と捉えている。
 
3:慢性腰痛患者に対し、横隔膜トレーニング(吸気に負荷)をかけた時の深層筋群の変化を合わせて検証した論文。横隔膜に加え、腹横筋、多裂筋などの筋厚にも変化が出た、特に興味深いのは多裂筋の変化は「左」がメインだった点。 
 

3本の論文から何が言えそうか?

「呼吸の乱れはそれ自体にとどまらず、姿勢や神経系の異常として波及していく可能性がある。」

横隔膜自体のつながりや機能は非常に広く(1)

・横隔膜と骨盤隔膜は同期して動く

・筋膜などを通じて、頚部から骨盤帯まで広く繋がる

・臓器との連絡もある

・主な支配は横隔神経だが、神経系全体の関連も無視しにくく、迷走神経の経路との接点も指摘されている

 

このあたりから見ても横隔膜を単なる呼吸筋として扱うには視野が狭すぎる可能性を感じます。

また腰痛患者においては。横隔膜自体の可動性の小ささも指摘されています。(2)

そうなると、腹部や胸郭を適切に使えずに、肩や首、あるいは腰などで支持するような動きにつながってくる可能性もあります。

実際に、腰椎での代償の可能性は指摘されていたり(2)、呼吸トレーニングでの腰椎安定筋群の肥大があること(3)から、この可能性は十分にありそうです。

 

臨床での応用は?

横隔膜を「呼吸のための筋肉」としてだけ見るか、「身体を支える仕組みにも関わる筋」として見るかで、臨床の見え方が大きく変わりそうです。

例えば慢性腰痛患者では横隔膜の可動域の小ささが触れられていましたが、もう少し見ていくと、横隔膜のドームが高く維持されやすい事が確認されています。(2)これは横隔膜自体を呼吸筋として使うか、それとも姿勢筋として使うか、という視点から繋げて考えてみると、なかなかおもしろそうな印象です。

実際に筋力発揮するよう場面では特に横隔膜の動きのエラーが出やすい傾向にもあるため(2)こういった課題遂行時の別の部位での代償動作を見ていくことは、その方の癖を発見するのに役立つかもしれません。

そのあたりPRIの観点は非常に参考になるなと感じながらこれらの論文を眺めていました。

 

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参考文献

 

(1)Bordoni B, Zanier E. Anatomic connections of the diaphragm: influence of respiration on the body system. Journal of Multidisciplinary Healthcare. 2013;6:281-291. doi:10.2147/JMDH.S45443

(2)Kolar P, Sulc J, Kyncl M, et al. Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2012;42(4):352-362. doi:10.2519/jospt.2012.3830

(3)Finta R, Nagy E, Bender T. The effect of diaphragm training on lumbar stabilizer muscles: a new concept for improving segmental stability in the case of low back pain. Journal of Pain Research. 2018;11:3031-3045. doi:10.2147/JPR.S181610

慢性腰痛患者では、副交感神経活動が低下しているかも?2021年のシステマティックレビューから

慢性痛を抱えていると、どうやら自律神経系の異常も認められるようで。

今回の論文はHRVという数値を用いて、慢性腰痛患者ではどんな状況になっているかを調査したシステマティックレビューを紹介していきます。

『Heart rate variability in patients with low back pain: a systematic review:腰痛患者の心拍変動性:システマティックレビュー』

では内容を見ていきます。

そもそもHRVって何だ?

HRV(心拍変動)とは、連続する心拍の間隔(RR間隔)のゆらぎのこと。自律神経系の調節能力や、感情処理の状態を客観的に図る指標として用いられる。

数値が高い=心身の適応力が高い=自律神経系の機能は十分に働いている

数値が低い=ストレスや適応力への低下=自律神経の機能の乱れ

つまり自律神経系の働きのバロメーターとして用いられるのがHRVという数値。

 

どんな論文?(ざっくり内容まとめ)

慢性腰痛患者では、健常者の対照群に比べてHRVの数値が有意に低下している。つまり交感神経優位の状態になっており、言い換えると環境変化やストレスに対しての適応力が低下している状態と言える。ただし、サンプル数が少なく、対照群の属性も揃えられていないため、限定的な示唆として提言されている。

レビューの限界点

今回はシステマティックレビューではあるものの対象となっている論文は2件、かつサンプル数も小さいものでした。(腰痛群153名、対照群62名、主に女性)

対照とされた群では、性別、年齢などを腰痛群と一致させられておらず、この比較もまた参考に留めておくべきかと思います。

またこのレビューでは急性、亜急性の場合においてはHRVがどのように反応するかは不明という点も挙げられます。

 

臨床応用への考察

こちらの記事では呼吸リズムについての研究を紹介していきました。 

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

ここでは0.1Hzの呼吸(10秒に1回)ののようなゆったりしたペースだと、HRVの数値が上がり副交感神経系(特に迷走神経)のトーンが上がるというものでした。

慢性腰痛では、このHRVの数値のベースラインが低下しているようで、つまり交感神経系のトーンが上がっていることが示唆されています。

通常の施術に加え、ゆったりとした呼吸を用いた副交感神経のトーンを上げていくことは、慢性腰痛に悩む方への一つの武器になるのではないでしょうか?

ただし前回のブログでは呼吸法を行うことでストレスがかかってしまうことも言及しています。

dnm-pain-therapy.hatenablog.com

十分に応用できる内容ではあるかもしれませんが、やはり使い方、介入のタイミングに関しては慎重になる必要がありそうです。

 

参考文献

Pamela M et al『Heart rate variability in patients with low back pain: a systematic review』Scand J Pain 2021; 21(3): 426–433,https://doi.org/10.1515/sjpain-2021-0006