コリと痛みを考えるブログ

高輪で深層筋治療を行っています。

横隔膜は呼吸だけの筋肉ではない。姿勢や慢性症状との関わりもありそう。

はじめに

 
横隔膜というと、呼吸によって使われる筋肉だというのが一般的なイメージかと思います。(もしかしたら筋肉というイメージもない方もいらっしゃるかもしれません。)
 
もちろん、それ自体は間違っていません。ただし臨床現場での肌感や、あるいは種々の文献を辿ってみると、横隔膜を単なる「呼吸の筋肉」として片づけるには、少し足りないなという感じもします。
 
ということで今回は、横隔膜が呼吸だけでなく、姿勢や身体の支え方にも関わっている可能性について、3つの論文を引用しつつ、紹介していきたいと思います。

 

 

3つの論文

 

まず1つ目は、『Anatomic connections of the diaphragm: influence of respiration on the body system』
訳すと『横隔膜の解剖学的関係:呼吸が身体システムに及ぼす影響』という2013年の総説です。
 
2つ目が『Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain』
訳すと『慢性腰痛のある人とない人における横隔膜の姿勢機能』という2012年の研究です。
 
そして3つ目が『The effect of diaphragm training on lumbar stabilizer muscles: a new concept for improving segmental stability in the case of low back pain』
訳すと『横隔膜トレーニングが腰部安定化筋に及ぼす影響:腰痛における椎間関節の安定性を高めるための新たな概念』という2018年の研究です。
 
さてそれぞれの内容を見ていきましょう。

どんな論文か?(ざっくりまとめ)

 

1:横隔膜が単独で働く筋肉ではなく、胸郭、腹部、脊柱、骨盤、神経系まで広く関わっている存在として整理されている。横隔膜自体を「ハブ」として捉える見方を提供してくれる個人的にめちゃくちゃ面白い論文。
 
2:慢性腰痛群では健常者と比べて、負荷がかかった時の横隔膜の高さや角度に違いがあることを調べた論文。慢性腰痛群では健常者と比べて、横隔膜の位置が高く、可動性が小さい傾向が見られた。前部、中部の動きが小さく、中後部の傾斜が強くなるパターンが見られ、著者らはこれを横隔膜の姿勢機能以上と捉えている。
 
3:慢性腰痛患者に対し、横隔膜トレーニング(吸気に負荷)をかけた時の深層筋群の変化を合わせて検証した論文。横隔膜に加え、腹横筋、多裂筋などの筋厚にも変化が出た、特に興味深いのは多裂筋の変化は「左」がメインだった点。 
 

3本の論文から何が言えそうか?

「呼吸の乱れはそれ自体にとどまらず、姿勢や神経系の異常として波及していく可能性がある。」

横隔膜自体のつながりや機能は非常に広く(1)

・横隔膜と骨盤隔膜は同期して動く

・筋膜などを通じて、頚部から骨盤帯まで広く繋がる

・臓器との連絡もある

・主な支配は横隔神経だが、神経系全体の関連も無視しにくく、迷走神経の経路との接点も指摘されている

 

このあたりから見ても横隔膜を単なる呼吸筋として扱うには視野が狭すぎる可能性を感じます。

また腰痛患者においては。横隔膜自体の可動性の小ささも指摘されています。(2)

そうなると、腹部や胸郭を適切に使えずに、肩や首、あるいは腰などで支持するような動きにつながってくる可能性もあります。

実際に、腰椎での代償の可能性は指摘されていたり(2)、呼吸トレーニングでの腰椎安定筋群の肥大があること(3)から、この可能性は十分にありそうです。

 

臨床での応用は?

横隔膜を「呼吸のための筋肉」としてだけ見るか、「身体を支える仕組みにも関わる筋」として見るかで、臨床の見え方が大きく変わりそうです。

例えば慢性腰痛患者では横隔膜の可動域の小ささが触れられていましたが、もう少し見ていくと、横隔膜のドームが高く維持されやすい事が確認されています。(2)これは横隔膜自体を呼吸筋として使うか、それとも姿勢筋として使うか、という視点から繋げて考えてみると、なかなかおもしろそうな印象です。

実際に筋力発揮するよう場面では特に横隔膜の動きのエラーが出やすい傾向にもあるため(2)こういった課題遂行時の別の部位での代償動作を見ていくことは、その方の癖を発見するのに役立つかもしれません。

そのあたりPRIの観点は非常に参考になるなと感じながらこれらの論文を眺めていました。

 

kimurachiryoin.com

参考文献

 

(1)Bordoni B, Zanier E. Anatomic connections of the diaphragm: influence of respiration on the body system. Journal of Multidisciplinary Healthcare. 2013;6:281-291. doi:10.2147/JMDH.S45443

(2)Kolar P, Sulc J, Kyncl M, et al. Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2012;42(4):352-362. doi:10.2519/jospt.2012.3830

(3)Finta R, Nagy E, Bender T. The effect of diaphragm training on lumbar stabilizer muscles: a new concept for improving segmental stability in the case of low back pain. Journal of Pain Research. 2018;11:3031-3045. doi:10.2147/JPR.S181610